赤鬼



ガラスのコップをかみ砕いで
口から出して見せなければ
口を真っ赤な鬼にしなければ
わかりませんか いいえ あなたは知っている
わたしに気付けることがあなたに分からぬはずはない
あなたは見まいとしている
わたしもまた見まいとしているように
人のことは責めるが自分の怠惰は棚に上げる
こうして 死体や病を 罪を
なにより 当てのない 考えもなく進んでいく航路に
気付かないまま 一生を終えたいと考える
波に浮いていられる間にくたばれることだけを特権として胸に抱きしめて


終わりがくればあなたは
おどけて舌を出すだろう
ちえっ 逃げ切れると思ったのに
わたしはそれを愛さないでもないが
おそらく笑いもしないで考えるだろう
これがわたしたちか
自らの運命に立ち向かうことすらできないで
歴史の中に消えていく ものいわぬ一群か
ただこの沈みゆく大きな船で 最後まで人の心を慰めようと
才のありったけを捧げる音楽家たち詩人たちが気の毒で泣けてくる
もっとよい運命にふさわしい人々も
ここには大勢いるのに


でもわたしたちの脳みそが壊れてしまって
未来が見えないのならもうそれは仕方がない
わたしたちの種はもっと別の場所で花ひらくだろうが


馬鹿者ども もし本当にわれわれが選ばれた一群なら
この状態をなんとかしてみろ
ちがう わたしたちはありきたりな一群だ
いまさら波の下に都があると言われたいか
顔をあげて人々の口を見ろ
笑いはみ出すマスクの下から 赤い汁の滴っているのを







(了)
2021/10/05
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