身ひとつの歌





くろぐろとした髪の毛のような
もつれあった、負のかたまり ぼんやりと
海の遥か遠くに浮かんでいる



ああ あんな恐ろしいものと身ひとつで
戦うのですか このわたしが



わたしには宗教がない 教養もない
意識はふにゃふにゃ 疲れやすくて
親もぐらぐら 周囲もあやふや
友達もみな 似たようなものです



財産もない 土地もない
野望もなければ 思想もない
だれかが作った服を着て
だれかが作った靴を履き
だれかが作ったごはんを食べて
だれかが作ったかばんを持って
だれかと一緒に電車通勤
明日どうなるかなにも知らない


そんなわたしが身ひとつで
戦うのですか あんなものと




何年も前からあれはあそこにいる
そこで波が回るから波紋だけが違って岸に届く
みなあれのあることは知っている
いずれ来ることも知っている
でもだれも言葉にしない どれほど検索サイトを探しても
一行だに 見つからない




朝ぼらけ 霧のかなたを透かして見る
やっぱりそいつはいる 確かに海に浮かんでいる
でも目を凝らしても しかと深さの分からない
そいつは
永遠と手をつないでいるのだと分かる
深い 深い おそろしいものであることが分かる
まるで燃える闇のようだ




わたしは自分が 紙くずででもあるかのように感じる
こわい おそろしい おぞましい
いつかあれは岸辺に来る
わたしを飲み込みにやって来る
いやそれとも、見ているだけか
わたしが臥して 弱っていくのを
ああして海の向こうで待っているだけなのか



こんな21世紀の自分が
たったひとり 身ひとつで
戦うのですか あんなものと







(了)
2013/3/18
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